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「ハイパーオートメーション」

最新ITキーワード2024年05月10日

RPAを超える全体最適への道

 事務室の自動化(OA)、工場の自動化(FA)、定型業務の自動化(RPA)─そもそもコンピュータは自動化のための道具である。現在は各領域で発達した個々の自動化ツールを統合し、より効果的に全体プロセスを自動化する「ハイパーオートメーション」が注目されている。日本語に訳せば「超越自動化」。企業の間で浸透したRPAを超える自動化の新しい動きである。

 企業活動はさまざまな分野で自動化が進んでいる。「人工知能」と訳されるAIは画像認識や音声認識、自然言語処理など人間の脳の働きをシステムが代わって実行する技術である。OCRは伝票や書類から文字や数字などのデータを自動的に読み取る。バーコードや二次元コードもコンピュータが情報を読み取る。クラウド上で複数のアプリを連携させて複合的にデータ処理するiPaaSもある。そして、ソフトウェアロボットによって定型業務を自動処理するRPAが効率化を推進するツールとして普及してきた。

 個々の自動化技術はそれぞれの領域で飛躍的に効率化を推進してきた。しかし、今後重要なのは「全体のプロセスの自動化」である。個別最適を超えて全体最適を追求する。加えて、システムの統合を容易にする可能性を秘めた「生成AI」も登場してきたので、1つ上の次元で自動化を進める─ハイパーオートメーションが実現する。

 課題も見えてきた。システムの連携や統合には、業務プロセス全体を可視化して無駄な処理工程を発見し、全体最適を目指すことが必要だが、この作業が大変だ。コストもかかる。ただ、このシステムの見直しで業務処理時間が大幅に短縮できる。業務プロセスの改革(BPR)で人材の余裕を生み出し、企業全体の業務改革にもつながる。ほとんどの工程で人が関わらなくなるので、人為的ミスや不正のリスクを大幅に減らす効果も期待できる。

「ハイパーオートメーション」

 ハイパーオートメーションの上でRPAは局所的なものにはなるが、重要な部分だ。ビッグデータの獲得や分析などと組み合わさって、データの自動収集や加工処理、自動出力などに発展し、全体自動化システムが実現する。

 RPAは事務作業の自動化手段としてすでに多くの企業や自治体などが採用しているが、登場時に比べ、周辺のICT環境は大きく変化している。さまざまな個別分野で自動化技術が大きく発展し、AIの進展で電子メールやSNS、画像、映像、音声などの処理が容易になり、多国語翻訳技術も飛躍的に向上した。自動生成AIも想像を超えた進歩である。どういう結果を求めたいか音声で要求すれば、音声や文章、グラフなどで出力してくれる。

 いろいろな領域での自動化技術の発展と連携して、更にハイパーオートメーションは進展する。異分野の連携には困難も伴うが、それを乗り越えて次の経営革新のキーになりそうである。

プロフィール

文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]
株式会社MM総研 特別顧問

1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任、2019年7月から同社特別顧問。