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「量子コンピュータ」
最新ITキーワード2023年03月22日未来コンピュータが現実に
コンピュータは難解な量子の世界に踏み込んだ。量子は「挙動があいまいで確率的にしか捕捉できない」という特徴を持つ。量子コンピュータはこの「あいまいな挙動」を利用した未来の超高速コンピュータである。これまでスーパーコンピュータでも処理できなかった限界を突破して、金融や産業に大きな変化をもたらすと予想される。パソコンやスマホも内部の動作理論が分からないままその恩恵に浴している。量子コンピュータも、概略さえわかれば大丈夫だ。
一般のコンピュータが0か1のビット単位の情報を基にプログラムやデータ処理の体系を作っているが、量子コンピュータでは0と1が重なった状態の量子ビットが基本になる。ここが大きな違いである。ビット単位で処理するのに比べ、量子ビットでは並列的に一挙に大量の計算ができるので、並列処理の算式ができれば計算速度が飛躍的に向上する、といわれている。
要は計算速度が猛烈に速くなるのだ。そのため、計算速度がネックで進まなかった分野で効果が出ると期待されている。
まず、画期的な新薬の開発が進むとみられる。無数の種類のある分子の組み合わせが必要だが、量子コンピュータはそのシミュレーションを効率的にできる。また、電気自動車や不安定な再生エネルギーを安定的に利用するための蓄電池の開発、交通渋滞の解消や輸送システムの最適化、排出されるCO2を回収する新技術開発、災害時の避難ルートの最適化、太陽光とCO2を使って水素や化学原料を作る人工光合成技術の開発、触媒開発で飼料を改良し食糧増産を図る、金融市場のリスク評価など、研究が進んでいる。
量子コンピュータは幅広い分野で利用できるとみられるゲート方式と、たくさんの選択肢の中から最適な組み合わせを導き出す問題に特化したアニーリング方式とがある。ゲート方式は技術的な課題が多く、実用化に時間がかかるとみられるが、分野を特化したアニーリング方式はすでに実用化に向かっている。

最近話題になったのは、NECフィールディングとNECが共同で行った、保守部品の配送効率向上に向けて、量子コンピューティング技術を活用した実証実験だ。
首都圏で一日に発生する保守作業は数百件。カスタマエンジニアのスキルや到着時間をもとに作成した出動計画にそって交通事情を加味、パーツセンターから部品を配送する。ただ、事情は複雑である。緊急対応や定期保守、時間指定など様々な注文に応じなければならない。さらに配送エリア、部品の種類・サイズ、トラック・バイクなどの配送手段の組み合わせ、と考慮すべき要素は膨大で、配送計画を立案できる人材は限られている。
この大規模な組み合わせ問題はアニーリング方式の得意領域だ。NEC Vector Annealingを活用、配送効率の向上によるコスト削減とCO2削減、配送計画立案の属人化解消などを目指している。今年度中には実験を終え、実用化に移る見通しだ。
量子コンピュータの時代の到来は意外に早そうだ。
プロフィール
文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]
株式会社MM総研 特別顧問
1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任、2019年7月から同社特別顧問。