サイト内の現在位置
「メタバース」
最新ITキーワード2023年02月15日創造力が花開く舞台
SNSの代表的企業、フェイスブックが社名を「メタ」に変えた。次のITサービスは「メタバース」だと予測し、目指す市場を先取りして社名を「メタ」にしたと聞いて、「???」の思いをした人も多かったのではないか。一体、「メタバース」とは何だろう。
「メタ」は「超越した」という意味の接頭語。「バース」は宇宙を意味する「ユニバース」からとった。現実世界を超えた「超宇宙」。つまりリアルを超越した別の世界が「メタバース」だ。インターネット上に作られた仮想空間で多数のメンバーが参加する世界である。
その前身あるいは初期というべきサービスはすでに登場している。
十数年前、一時話題を呼んだ「セカンドライフ」は最も内容が近い。仮想的に創造されたインターネット空間で多数のユーザーが自身の代理であるアバターを動かす。現実の世界とは別の第2の生活を過ごすので“セカンドライフ”。最近では、バイデン米大統領も選挙運動に使用した大人気ゲーム「あつまれどうぶつの森」もある。また、複数のプレイヤーがスポーツゲームをオンラインで競い合うeスポーツは本質的にメタバースの例だ。観客としても参加できる。
新型コロナの感染拡大で定着したオンライン会議などもメタバースの前触れである。実世界とは別の場所の仮想会議室に多数の人間が集まって意見交換し、意思決定する。ネットワークに出現した仮想会議室で身代わりにアバターを使えば、構造はメタバースと同じである。

「メタバース」とわざわざ強調するのは、前身あるいは初歩的サービスに比べ、質的に飛躍があるからだ。コンピュータやネットワーク性能が飛躍的に向上し、映像のリアリティーが増す。実現できる仮想世界の内容も多様化し、格段の進化が予測できる。
かつてのセカンドライフを再点検すると、メタバースの世界の一端が見える。セカンドライフではその仮想空間の中に街が出現し、百貨店やスーパーなどの小売店やゲームセンター、レジャー施設、銀行などが出店した。参加者が自宅を建設し、街の中で散歩を楽しみ、他の人々(アバター)と交流する。国境を越えて世界中からアバターが集まる。店に入って買い物をし、レジャー施設で遊ぶ。コンサートホールや劇場に入って音楽や演劇を多数の観客に交じって楽しむ。お金は共通の仮想通貨だ。自動通訳システムで言語の壁はない。土地の売り買いや賃貸もできる。賑わいのある街の人気は高く、不動産取引価格は現実世界同様に高騰していた。セカンドライフは現実の世界を反映した色彩が強かった。
これから創造されるメタバースはセカンドライフをはるかに高度化したものになるだろう。アバターはリアルな映像になる。人の交流は多様で活発になり、地域を超えるばかりではなく、過去や未来とも行き来し、時間も超えるかもしれない。この世界でどんな新しいビジネスが芽生えるか。異質な文化が触れ合い想像を超えた世界が生まれるだろう。豊かな創造力が花開く舞台になる。
プロフィール
文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]
株式会社MM総研 特別顧問
1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任、2019年7月から同社特別顧問。