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「IoB」

最新ITキーワード2023年01月13日

進展する情報通信技術

 あらゆるモノがインターネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングズ)の次の主役が早くも姿を現してきた。「IoB」である。IoTは防犯カメラや各種センサー、スマートフォン、ロボット、家電製品などをインターネットにつなげ、オフィスや工場、家庭などに急速に浸透しつつあるが、次の主役の登場も早い。情報技術の進展の速さだ。

 IoBには二つの潮流がある。

 まず、インターネット・オブ・ボディ(Internet of Bodies)、つまり「B」はボディ。「体」だ。スマートウォッチなどの身に着ける装置で脈拍や呼吸、体温、血圧などを常時測定して健康状態を遠隔でリアルタイムに見守る。また、ペースメーカーなど体内に埋め込んだ装置で健康状態を遠隔監視する。さらに、脳に装置を入れて感情や思考を外部から検知する。これらがビッグデータとして集積されれば深い知見が得られ、新しいサービスも生まれる。

 もう一つはインターネット・オブ・ビヘービア(Internet of Behavior)、つまり「B」はビヘービア。「行動」や「振る舞い」だ。「行動のインターネット」「振る舞いのインターネット」と呼ばれる。人の行動はスマホの位置情報の追跡や顔認証インフラなどで情報が集積される。リアルタイムに行動を解析し、ユーザー個々の求める情報を最適な場所、時間で提供できる。

他で集められた情報とクロスしてさらに意味が出てくる。地域が特定されれば、近くにいる友人、好みの飲食店やコンビニの所在地がすぐにわかる。マーケティングだけでなく、作業性の良いオフィスのレイアウトなどの基礎データとしても有効だ。地域の人の流れがわかれば街づくりに役立つ。スマート社会、スマートオフィス、スマートホームを豊かに実現する。感染症の状況を「見える化」して拡大抑止にも利用されるだろう。

「IoB」

 SNSや各種ウェブサイトの利用履歴や購買履歴など、インターネット利用のビヘービアの集積からも多くの知見が得られる。マーケティングはもちろん、商品やサービス開発に役立つ。ユーザーが求める情報を適時・適所でリアルタイムに提供する精度も上がる。

 ただ、問題は個人情報の取り扱いだ。従来、ユーザーに無断で収集してきた「行動情報」について、欧米の規制当局はプライバシーの侵害にあたるとしてルールを厳しくしてきた。プライバシーとの折り合いをつけて適切に発展させられるか。技術は十分に整っているので、次なる進展が期待されるところだ。

 自動車の自動運転はIoTの極致である。行く先を指定して後はインターネット経由の情報のやり取りだ。渋滞を避け、接触事故を回避し、右折左折をスムーズに行い、駐車場では駐車スペースを見つけて正確に停止する。インターネットや位置情報システムからの情報で自動車の走行が決められる。

 その自動運転をさらに円滑にする次の要素はIoBだろう。多くの自動車運転者の意思や行動がインターネットを通じて集積し、これを反映して社会全体で最適な運行状態を作り出せる。運転者の趣味嗜好から、昼食時には好みのレストランに運んでくれるかもしれない。

プロフィール

文=中島 洋[Nakajima Hiroshi]
株式会社MM総研 特別顧問

1947年生まれ。日本経済新聞社でハイテク分野などを担当。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)では『日経コンピュータ』『日経パソコン』の創刊に関わる。2003年、MM総研の代表取締役所長に就任、2019年7月から同社特別顧問。