フィールディングEyeNECフィールディングがお届けする百花繚乱のコラム集

The Game Changer

試合の流れを一気に変える人--ゲームチェンジャー。物事の流れを根底から覆し、人々の暮らしや社会、企業活動などに変革をもたらす……。
歴史のダイナミズムとは、そのようなゲームチェンジャーたちによる挑戦の結果によるものかもしれません。
現代社会を揺り動かすゲームチェンジャーとはどのような人たちなのか。
変革をもたらす視点、独自の手法、ゴール設定、モチベーションをいかに維持するか等々、変革に挑戦した者だけが語ることができる物語を紹介します。

2018年7月13日

第5回
株式会社 hapi-robo st
富田直美氏

人を楽にさせることが、人を幸せにするわけではない
「人々の生活を幸せで豊かにする」を目指す、ロボット会社を設立

ハピロボの富田直美社長にインタビューしました

IoT、AI、ロボットがブームだ。その波に乗り損ねることはできないと、経営者も技術者も血眼になって道を探っている。(株)hapi-robo st(以下ハピロボ)の富田直美社長は、「そんなのはまやかし。コピペに過ぎない」と一笑に付す。大事なのはベストプラクティスを追い求めるのではなく、自ら考え経験し、創造していくことなのだと説く。「そうでなければイノベーションなんて起こせるはずがない」。

最初から完璧なんてありえない

――ハウステンボスの「ロボット王国」や「変なホテル」でのロボットが好評ですね。

富田 エイチ・アイ・エス(H・I・S)の澤田秀夫社長に乞われてハウステンボスの経営顧問に就き、出席した最初の会議が「変なホテル」の開設準備会議の2回目でした。名だたるメーカーの技術者がプレゼンテーションをしましたが、そのプレゼンに片っ端からダメ出しをしたのが私です。それで経営顧問でありながらCTOとしてハウステンボスを見る立場にもなりました。
 ハウステンボスでの事業の魅力は、実験的になんでもできることです。ロボットが働く「変なホテル」が好例です。それをアジャイル型の開発で進めていくというのも含めて。最初から完璧を目指してもできっこない。とにかくやってみて、不具合があれば改善していこうと。
 お客様から不満が出るという意見もありましたが、ネーミングが「変なホテル」ですよ。それに、「いざとなればスタッフを総動員すればいいじゃないですか」と押し切ったんです。
 とにかく着手する、というのがアジャイル型開発のいいところですね。従来のウォーターフォール型の開発では時間もコストもかかるし、完成した時にはすでに次の時代に変わっていて、もはや時代遅れ、となってしまいます。とにかく開発して、随時不具合は直すし、アップデートする。
 この方針の裏には、明確なロードマップがあったからです。「変なホテル」の発表記者会見では、記者にイチを聞かれたら十を返せるくらいの自信がありました。そうでなければ「変なホテル」なんてできません。

――「ハウステンボスを壮大な実験場としたわけですね。澤田社長とのつながりのきっかけはどこにあったのですか。

ハウステンボスとのつながり

富田 “ベンチャー三銃士”と呼ばれる人たちがいます。パソナグループの南部靖之代表兼社長、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長、もうひとりがH・I・Sの澤田秀雄会長兼社長です。その3人を育てたといわれるのが、一般財団法人日本総合研究所を作り多摩大学なども作った野田一夫さん。その野田さんとゴルフを通じて知り合い、澤田社長とも野田さんを介して深く知り合うようになったんです。
  当時、私は外資系IT企業11社の社長をやっていました。しかし「数字に追いかけられるのはコリゴリ」と思っていて、野田さんに誘われるままに日本総研の理事に就き、経営コンサルタントをやっていました。その時に、破たんした長崎オランダ村を再建するプロジェクトチームに途中からコンサルタントとして入りました。2014年頃ですね。
  その頃私はドローンを使った空撮に熱中していて、長崎オランダ村でも、関係者から説明を受けるよりドローンで撮影した映像を見た方が手っ取り早いと敷地内で飛ばしていたんです。ほとんど私個人の楽しみで(笑)。

 西海市にある長崎オランダ村から佐世保市のハウステンボスまではそう遠くない。同じように経営破綻したハウステンボスをH・I・Sが傘下に収めていて、私が長崎オランダ村に行った帰りに澤田社長に連絡してみると、「ハウステンボスに来ているよ」という。ならば、というので会いに行き、ドローンも持っていたのでハウステンボスでも飛ばしてみせたら、澤田社長が、これは使えそうとえらく喜んで、ハウステンボスの空撮や、花火の中を飛ぶ映像を撮影しました。
  長崎オランダ村の再建は、様々な要因でうまくいかなかったこともあって手を引き、澤田社長に乞われてハウステンボスの経営顧問に就任したわけです。

ハピロボはGRPを目指す

――それがハピロボの設立につながるのですね。

富田 澤田社長から「いつやりましょう、すぐやりましょう」と催促されて……。
  花火の空撮もそうですが、彼なりに夢が膨らみ、期待も高まったのだと思います。まあ技術的な面でなかなか難しいだろうとは予想しました。それでも催促されるので、2016年7月に準備会社を設立しました。
  意外に思われるかもしれませんが、「人々の生活を幸せで豊かにする」と謳っておきながら、ハピロボではロボットを製造しません。開発者やメーカーへの助言やコンサルティングをメインにしています。メーカーには絶対になりません。工場を持ったら、それが重荷になり技術革新についていけなくなる。そこはノウハウのあるメーカーに任せて、メーカーの開発をサポートしたりコンセプトを提案したりします。ハピロボはGRP(ゼネラル・ロボティクス・プロバイダーもしくはプロデューサー)を目指しているんです。

――富田さんがロボットに興味を持つ背景には何があったのでしょうか。

富田 子供の頃、小学校の前に文房具屋さんがあって、学校帰りに寄っては何かおもしろいオモチャはないかと物色していました。これは、と思うものがあると家に飛んで帰って、母に「すごいものがある。それを手に入れれば僕は幸せになれる」とねだるわけです。
  お金をもらって、文房具屋さんに取って返して買ってくる。しかし最初に夢を膨らませたものでないとわかると、ガックリきて返品に行くんです。文房具屋さんのおばちゃんもわかったもので、それを許してくれる。
  例えばヘリコプターのオモチャ。ヘリコプターなら飛ぶだろうと想像する。しかし飛ぶわけないですよね、子供のオモチャですから。それで返品してしまうんです。
  少し大きくなると、近所のお兄ちゃんが飛行機の模型を上手に作っている。それを飽きもせず眺めていると、だんだん親しくなる。すると「飛ばしてもいいよ」と言ってくれる。
  その時に自覚しました。「ボクは作るのも上手いけど、本当は作るよりも飛ばすことが好きなんだ」と。そのうち、お兄ちゃんたちの模型飛行機のテストパイロットになるわけです。飛ばすのが上手でしたから。私が飛ばすと墜落しないんです。

富田さんがロボットに興味を持つ背景

 社会人になると、模型飛行機はラジコンの時代になっていました。そこで日本選手権や世界選手権に出るようになり、メーカーに行って部品や材料に改良を要求する。「選手権で勝てれば私は幸せになれる。だから最高の部品を作ってくれ」というわけです。それもアドバイスしてコンサルフィーももらって。メーカーだって、勝てる部品を作ってビジネスになれば嬉しいはずじゃないですか。そういう論理ですよ。そんなこともあって、今は自称“ラジコンの神”を名乗っています(笑)。

人を楽にすることは、人から創造力を奪うこと

――IoT、AI、ロボットがブームになっています。製造業もサービス企業もキャッチアップに必死で。

富田 車の自動運転も話題ですね。でも本当にそれが人の幸せにつながりますか。私は少なくとも運転したい。車で移動中も仕事をしなければならないほど忙しい人はどのくらいいるんでしょうか。
  ただ、ドライバーが運転中に意識を失った場合を想定したフェイルセーフティー技術なら歓迎です。
  大手ECサイトが構想中のドローン配達に批判的と先ほどもいいました。東京の空を何千というドローンが飛び交う様子を想像してみてください。ちょっと異常な光景です。
  最近はIoTやAIのイベントが花盛り、私も講演をする機会があります。私は冒頭でいきなり「IoTはダメだ」と言い放つんです。聴衆はビックリしますよね。ヒントを得ようと来ている企業関係者もビックリですよ。

人を楽にすることは、人から創造力を奪うことを語る

 なんでもインターネットでつながる社会とは、どのような社会なのでしょうか。例えば自分が着ている衣服にもチップが埋め込まれて、常時ネットワークにつながっている……。想像してみてください、それが幸せですか。私は嫌ですね。そんな衣服を私は着ない。しかし、まだ誰も深く考えていない。“とにかくつながる、生産性が高まる”という一面しか見ていない。
 “IoTで人々の生活が便利になり、楽になる”という。しかし、人を楽にすることが人を幸せにすることにはつながらない。人を楽にするとは、人から創造力を奪ってしまうことです。結局、今の状況は、ベストプラクティスを集めてコピペすることに汲々としているだけ。自分の幸せは自分でしかわからない。他人のベストプラクティスは、あくまでも他人の幸せでしかないんです。

――それでも技術革新は続きます。AIは人の能力を超える、いわゆるシンギュラリティー(技術的特異点)の時がくるともいわれています。ロボットも人を超えていくのでしょうか。

富田 人の五感を超えるセンサーは技術的に不可能、というのが私の持論です。一つ一つの要素ならば、人よりも高い能力を持ったセンサーは存在しますし、人が感知できないこともセンサーならばできることも多い。しかし五感を働かせて統合的に対応することは難しいでしょうね。アルファ碁のように、ソフトが囲碁の名人を打ち破るのは、囲碁の打ち手を全部知っていて、膨大なデータを瞬間的に処理する能力があるからです。ただそれだけに過ぎません。
  シンギュラリティーという言葉は多くの人が知るようになりましたが、私はマルチラリティーにも注目しています。世界最高のソロ演奏家を集めてオーケストラを編成しても、演奏はまとまりがつかないでしょう。大事なのはそれをまとめるコンポーザーです。一つひとつの要素が人の能力を超えても、完全に超えるためには、複数の要素が絡み合い、組み合わされなければなりません。
  一方で、人は、相手の口調や表情から、相手がどういう状況にあるかを推測するといったことを日常的に行っています。それも意識的にではなく無意識に行っています。これも五感を働かせて自然に表情や行動に出せるということです。人はすごい潜在能力を持っているのです。その能力を引き出せた時が、一番幸せを感じる時なんだと思います。
  その点で、CPUメーカーのインテルがセンサー事業に重点を置くというのは正しい選択といえます。ちなみに、インテルはLEDを搭載したドローンを数百機も飛ばすドローン・ライトショーを世界各地で行っています。ハウステンボスでもこのショーを見せてくれることになっていますので(2017年7月22日から8月5日まで)、もし機会があれば体験してみてください。

プロフィール
富田 直美(とみた・なおみ)氏

株式会社 hapi-robo st 代表取締役社長
ハウステンボス取締役CTO
H・I・S取締役CIO

1948年生まれ。祖父はバプテスト派の牧師、父は哲学者で教師、津田塾大学で学んだ母という環境で育つ。幼少期は洋風の生活の中で「卵ではなくエッグでもなくイー・ジー・ジーと覚えさせられた。かなり変わった少年だった」と笑う。外資系IT企業の社長を多数歴任。日本総研理事などを経てハウステンボスの子会社として2016年7月hapi-robo st設立。

プロフィール富田 直美氏

撮影:清水タケシ
監修:株式会社日経BPコンサルティング
記事中の意見・見解はNECフィールディング株式会社のそれとは必ずしも合致するものではありません

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