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トレンド最前線

2021年9月10日

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第1回 特別コラム
DXはどこへ向かうのか
『前編』DXは業務のデジタル化ではない

京都大学大学院総合生存学館
特任准教授 山本康正 氏

変化の兆しは2014年ごろ

 デジタル・トランスフォーメーションという言葉はもともと、スウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に発表した論文「Information Technology and the Good Life(情報技術と良い生活)」で使われました。この論文では、より良い社会を実現するためテクノロジーをどう使うべきかが議論されており、その中でこの言葉は「デジタルテクノロジーが生活に及ぼす変化」という意味で使われています。

 ドイツが米国の経済に追いつこうと2011年に「インダストリー4.0」発表した構想を本格化する中で、2014年ごろから変化が起こります。金融危機の後、ドイツは経済の立て直しのためにインダストリー4.0(第4次産業革命)という取り組みを本格的に推進するようになりました。その中で、トランスフォーメーションを「X」と略したDXが改めて注目されたのです。ドイツの産業の進化が米国のテクノロジー企業に比べ遅れているので、その遅れをDXで取り戻そうとしました。
 ドイツが金融危機をきっかけにインダストリー4.0、そしてDXへと進んだように、日本でも今回の新型コロナウィルス蔓延をきっかけに、企業の業務の見直しや働き方の改革からICTによるDXに注目が集まるようになりました。つまり、DXとは進化から取り残された企業がデジタルテクノロジーを活用して巻き返しを図るものなのです。

 私はDXのことを「お寺の改修」とよく例えています。京都の清水寺は50年に一度といわれる大改修をしましたが、2017年から2020年まで大規模な工事を長期間行っていました。なぜなら、伝統あるお寺の改修とは、更地に他の近代的な建物を建てるよりも、ベテランの宮大工さんや指定された建築資材など、大幅にコストや手間がかかるからです。

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 これは、古いシステムをつぎはぎで改修していくコストは、クラウド経由でシステムを利用することよりも大幅に高くなることに似ています。文化遺産ならば費用対効果はある場合もありますが、ビジネスという競争においては大幅なハンデになるのです。これは経済学でいうサンクコスト(埋没費用)が関係しています。これまでの業務を多大な費用をかけた古いシステムでやっていることからまったく新しいシステムで安く行うことになかなか踏み切れないのです。もし、その決断がシステム部担当の人ならばなおさらできないでしょう。うまくいったことによるコスト削減よりも、何か移行のトラブルがあったときには責任をとらされてしまうからです。なので、この様な意思決定は経営陣、できれば長期的な視野を持つ経営者しかできないのです。

DXの「内」と「外」

 さらにデジタルトランスフォーメーションは「内」と「外」に分かれます。「内」は組織内部の効率化、昔でいうとソフトウェアパッケージの導入、今であればSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス:クラウドを介したソフトウェア機能の提供)です。昔は5万円ほどしたソフトウェアパッケージがSaaSでは月々900円程で使えるようになり、自社のサーバも必要なく、よりセキュリティの堅牢なクラウドサーバを使えるため、導入のハードルは下がりました。これはICT化の延長線上ともいえるでしょう。

 日本は2001年にICT基本法を定めましたが、当時はスマートフォンもなく、クラウドや人工知能は十分に実用の想定ができていませんでした。かつ達成には努力義務であったため、ICT化は思ったほど進まなかったのです。ICT化とDXは何が違うのでしょうか。ブロードバンドが普及したのは2001年ごろからで、ICT化は当時から行われています。

 2000年代初めはまだiPhoneは登場しておらず、スマートフォンもほとんど普及していませんでした。現在のように高性能な人工知能(AI)はおろか、グーグルマップをはじめとするクラウドサービスもありませんでした。スマホで物を買ったりサービスを受けたりする習慣もなかったのです。
 ビジネスにICTを活用するといっても、パソコンや社内業務システムを導入するといった限られた取り組みでした。ICT化はどちらかというと、作業時間や人件費などを抑えるコスト削減としての側面が強かったといえるでしょう。

 大事なのはもう一つの「外」です。企業では顧客との付き合い方、稼ぎ方をどう変えるか、そのツールとしてのデジタル化を使うというものです。
 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのネットフリックスは1997年に創業しました。もともとはDVDのレンタルからスタートしましたが、社名の通り、ネットで映像を楽しむことも見越していました。そして、実際、10年後の初代iphoneが発売される2007年に満を持して映像ストリーミングを開始し、読みが的中したわけです。それほどの準備と技術の長期間の読みが必要とされるのです。

 その最適なツールは時代によって入れ替わります。例えば、今やPCよりもスマートフォンのほうが消費者にとっては利便性が高いのは当然で、今後30年で、また違うデバイスが出てきてもおかしくはありません。
京都のお寺でいうと、東本願寺がお賽銭をQRコードでも支払えるようにしました。外国人観光客と、新型コロナによる非接触に対応したわけです。

ビジネスを「トランスフォーム」する

 ドリルを買う人が望んでいるのは、ドリルそのものを求めているのではなく、簡単に穴をあけることを望んでいるという例えは、ハーバード大学のセオドア・レビット教授の発想ですが、デジタル化はまさに現代のドリルに過ぎません。新しい時代には新しいツールが登場します。現在、消費者へ普及している、もしくは5年以内に普及しそうなものを活用して、ビジネスモデル・行政を最適化し続ける必要がDXの本質なのです。

 すなわちDXは単なる一部の業務のデジタル化ではなく、「先進的なテクノロジーでビジネスをゼロから再構築するとしたら、どのようなものが最適か」をビジネスモデルの根幹から考え、その状態に「トランスフォーム(変化)」するものなのです。

 そのためには、良いものを安く売るというだけではなく、サブスクリプションや、アプリを通じての顧客との接点など、多くの視点を変えなければなりません。以下のフレームワークのように、日本はハードウェアや、おもてなしともいえる「サービス」は得意なのですが、ソフトウェア、特にデータサイエンスを使った取り組みが弱いのです。これは足し算ではなく、掛け算なので、大幅に競争力が落ちます。

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――(後編につづく)――
【後編】DXのその先に見えるもの

プロフィール
山本康正(やまもと やすまさ)氏
京都大学大学院 特任准教授

プロフィール山本康正さん

1981年、大阪府生まれ。東京大学で修士号取得後、アメリカ・ニューヨークの銀行に就職。金融とビジネスの知見を身に付ける。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。修士課程修了後グーグルに入社。グーグルで日本企業のDXを担当。メガバンク、証券会社、生命保険会社、損害保険会社などの金融機関の幹部に対し、フィンテックの導入や新しい技術導入、ビジネスモデル変革等のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援。テクノロジーの知見を身に付ける。ビジネスとテクノロジーの両方の知見を生かし、現在は主に「フィンテック」や「人工知能(AI)」を専門とするベンチャー投資家として活躍。
著書『シリコンバレーのVCは何を見ているのか』(東洋経済新報社)、『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社現代新書)

カスタマエンジニアの一日で見るデジタルトランスフォーメーションの取り組み

動画で紹介するデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組み

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