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5分で解説!気になるIT用語

2019年12月23日

デジタル教科書

第12回 「デジタル教科書」

 「デジタル教科書」とは、教科書の内容を閲覧・編集する機能などを備えた、デジタル機器や情報端末向けの教材を指す。

 デジタル教科書は、教員が電子黒板などを使って生徒に提示・指導するために使用する「指導者用デジタル教科書」と、学習のために生徒が個々の端末で使用する「学習者用デジタル教科書」の2つに大別される。一般的に、「デジタル教科書」とだけ言う場合は学習者用デジタル教科書を指すことが多い。

 かつて、教科書は法的に紙媒体であることが義務づけられており、デジタル教科書は補助教材(副教材)という扱いだったが、学校教育法などの一部改正によって、2019年4月より紙の教科書をデジタル教科書に代えて使用することが認められるようになった。

 この法改正により、制度化されたデジタル教科書(学習者用デジタル教科書)は、「紙の教科書と同一の内容がデジタル化された教材であり、教科書発行者が作成するもの」と文部科学省によって定義づけられ、動画・音声やアニメーションなどのコンテンツは引き続き補助教材扱いとなる。

 また、紙の教科書をデジタル教科書に代えて使える場面・時間は決まっており、現状はあくまで紙の教科書を基本とした併用制となっている。導入後の効果・影響を見極めることはもちろん、検定方法や著作権(紙版とデジタル版の両方にかかる)、予算などの問題もあるため、段階的に法整備が進められる予定だ。

 それでは、デジタル教科書を導入することによるメリットとデメリットを挙げていこう。

[メリット]

  • ①授業がわかりやすくなる

     紙の教科書だと、決まった大きさ・色の文字と図(または写真)だけが載っているが、デジタル教科書の場合はこれを編集したり、拡大・縮小したり、回転させたりすることができる。
     さらに(補助教材として)映像や音声もつけることもできるため、授業内容がわかりやすくなる。
     例えば、テキストの重要な部分の色を変更したり、アプリケーションを使って算数(数学)の図形を動かしたり、学校内で行うのは難しい理科の実験を映像で確認したり、ネイティブスピーカーの音声で英語の発音を聞けたりするわけだ。

  • ②障がいのある生徒への配慮

     文部科学省は『学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン』において、「視覚障害や発達障害等の障害、日本語に通じないこと、これらに準ずるもの(色覚特性や化学物質過敏症等)により紙の教科書を使用することが困難な児童生徒」を「特別な配慮を必要とする児童生徒等」としているが、デジタル教科書を使うことでこうした生徒への配慮が期待できる。
     例えば、読み書きに困難がある学習がいの生徒には音声でのテキスト読み上げ、ロービジョンと呼ばれる視覚障がいの生徒にはテキストの字体変更や拡大などが有効と考えられる。「紙の教科書をデジタル教科書に代えて使える場面・時間は決まっている」と先述したが、この場合は全教育課程においてデジタル教科書を使うことが認められている。

  • ③生徒の学習状況を把握できる

     デジタル教科書とICT機器を組み合わせることで、教員が生徒の学習状況を把握できるようになる。例えば、教員のコンピュータに生徒の端末画面を表示させて作業の進捗などを把握したり、生徒の学習履歴を記録したりすることで、より適切・効果的な指導が行われることが期待できる。

  • ④荷物の軽量化

     重い紙の教科書がタブレットなどの端末に代わることで、登下校時の荷物の軽量化が見込める。朝日新聞の2018年3月の記事によると、東京都内の小学1~3年生20人のランドセルの重さを量ったところ、平均7.7キロだったという。
     まだ体の小さい子供がこれだけの荷物を背負ってしまうと、骨格などへの悪影響が起こる恐れがあるため、早急な対策が必要だろう。

デジタル教科書デメリット

[デメリット]

  • ①保護者の負担増

     紙の教科書は、小・中学校に在学している全ての生徒に無償(国負担)で配布されているが、デジタル教科書については現状無償化の検討はされていない。加えて閲覧するための端末も必要(学校からの貸し出しまたは購入)になるため、保護者にとっては負担増となる。

  • ②地域間の学習格差

     デジタル教科書を使うには無線LANなどのICT環境が必要になるが、こうした学校への環境整備の進み具合は各地方自治体によってまちまち。そのため、すぐに導入できる自治体とそうでない自治体があるのが現状だ。
     デジタル教科書の学習効果が大きく出た場合、地域間の学習格差が生まれてしまうという懸念がある。

  • ③健康面への不安

     現代は子供の視力低下が大きな問題となっている。その原因ではないかと言われているのが、スマートフォンや携帯ゲーム機の長時間利用だ。学校でもデジタル端末を使うことで、この状況がさらに悪化するのではないかという懸念がある。
     その他には、睡眠障害、ネット依存症、VDT症候群(ディスプレイを使う作業を長時間続けることにより目や体、心に生じる症状)などを心配する声が上がっている。

[国内の整備状況]

 文部科学省が2018年2月に発表した「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によると、都道府県別のデジタル教科書の整備率は佐賀県が98.7%でトップとなっている。2位の石川県は83.1%であり、他に比べ環境整備が大きく進んでいることがわかる。

 佐賀県は2011年度から全県規模で学校のICT化に取り組んでおり、その成果がしっかりと出ているという形だ。

 逆に最も低いのは北海道の16.5%、次いで島根県の25.9%となっており、先のデメリットの部分でも触れたとおり、やはり自治体によるばらつきは非常に大きい。

 また、学校種別のデジタル教科書の整備率を見てみると、小学校が52.1%、中学校が58.2%、高等学校が12.5%となっており、義務教育である小・中学校でもおよそ2校に1校は未整備という状況だ。

 デジタル教科書を使用するにあたっての基盤となるICT環境に関連する項目を見ていくと、教員の校務用コンピュータは十分にあるものの、生徒が使う教育用コンピュータが足りておらず、インターネットの接続率自体は高いが、普通教室への無線LAN整備は進んでいない。

 また佐賀県を除くと、ほとんどの学校が特別教室には電子黒板があるが普通教室にはない、という状況のようだ。

 「予算がない」「先に解決しなければならない問題がある」など、ICT環境が整わない理由はさまざまだろうが、このままでは教育現場だけが情報化社会から取り残されかねない。

 文部科学省は2019年6月25日に公表した「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」において、2025年までに生徒1人につき1台の教育用コンピュータが利用できる環境を整える、教育ビッグデータを活用するといった「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」実現に向けた工程を示している。

 今後はこれらの実現に向けて国が強いリーダーシップを発揮していくことになるだろうが、民間企業が果たす役割も大きい。

 例えば、機器やインターネット回線の設置、保守運用、セキュリティ対策にフィルタリング設定など、専門家がやらなければならないことは多い。また文部科学省も、先に挙げた生徒1人につき1台の教育用コンピュータが利用できる環境実現のため、安価な端末を供給してもらうよう民間企業に協力を要請している。

この記事は2019年12月23日時点のものです。

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